コーヒーの味の決め手とも言える「焙煎」。コーヒーの味は焙煎度合いによって苦味と酸味のバランスが変わります。
焙煎は大まかに浅煎りから深煎りまでの3段階に大別できますが、本記事ではコーヒー豆のロースト(焙煎度合い)や、焙煎方式ごとの味の違いを解説します。
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コーヒー豆のロースト(焙煎度合い)ごとの味の違い
コーヒーの味を決定づけるとても重要なファクターである「焙煎」という工程があります。
コーヒー豆を購入する際、「浅煎り」「深煎り」「ライトロースト」「フルシティロースト」といった言葉を聞いたり、目にしたことがあるかも知れません。
この浅煎りやローストといった言葉が「焙煎度合い」をあらわします。そしてコーヒーの苦味や酸味のバランスはロースト度合いで決まります。
焙煎についての理解が深まると、自分好みのコーヒー豆を選ぶことが簡単になります。
まず、コーヒーのローストや焙煎度合いによる味の違いや、特徴を知る前に「焙煎」について簡単に解説します。
コーヒー豆のロースト・焙煎とは?
焙煎(ロースト)とはコーヒー生豆に熱を加えていく工程のことで、風味や香りを決定づける重要な工程です。
焙煎前のコーヒー豆を「生豆(なままめ」)といいます。生豆は薄い緑色をしていて、このままではコーヒーとして飲用できません。
▲コーヒーの生豆は青臭く、香ばしい香りはしない
生豆に熱を加えて焙煎することで化学変化がおき、コーヒー独自の苦味や香りが生まれます。
焙煎によって変わる味わいや風味、色の変化には主にメイラード反応、カラメル化、分解という化学反応が大きく関係しています。
メイラード反応
メイラード反応とは、アミノ酸と糖が加熱によって結びついて起こる反応のこと。
メイラード反応を起こしたコーヒー豆は、こんがりとした焼き色になり、香ばしい香りを放ちます。
パンやクッキーを焼いたときや肉を焼いた時に「いい香りがする」「香ばしくておいしい」と感じるのは、このメイラード反応によるものです。
カラメル化
カラメル化とは、砂糖を高温で熱すると褐色物質のカラメルができる反応のことです。
165℃の高温でコーヒー豆を加熱すると、特有の甘い香りをもつ物質が生まれ、カラメルソースの香ばしい香りがします。
また、加熱が進むにつれてカラメル特有の苦みをもつ物質も生まれます。
分解
コーヒーの生豆に含まれるクロロゲン酸や蔗糖(ショ糖)という成分は、加熱されると酸味のある物質に分解されます。
クロロゲン酸は、熱エネルギーによってキナ酸とカフェ酸に分解され、さらに焙煎が進むとコーヒーの苦味や香りの元となる物質が作られます。
ショ糖は熱エネルギーによって分解されて酢酸や、ギ酸などの有機酸を生成します。
生豆には酸味がありませんが、ミディアムローストあたりまで焙煎を進めると徐々に酸味が増していく理由は、ショ糖の分解によるものです。
浅い焙煎では熱分解によって生み出された酸味が強く感じられますが、徐々にメイラード反応やカラメル化による香ばしさと苦味が増していきます。
さらに深く焙煎することで豆は黒くなり、コーヒーらしい芳ばしい香りと深いコク、濃厚な味わいとともに苦味が出てきます。
そして、苦味のそばにある「甘み」が焙煎によって引き出されます。
適切な焙煎によってコーヒーの甘みが引き出される
コーヒー生豆の中の甘味成分はショ糖や多糖類が主体で、焙煎によってカラメル化したものは苦味に変わり、その他は甘味成分として残ります。
生豆には糖類が約60%含まれていますが、焙煎していくなかで「甘み」を引き出せるかどうか?
これは、技術の差があらわれるポイントと言っても過言ではありません。
コーヒーの甘みとは、お米を何度もかんだときに感じられる、あのほのかな「甘味」です。
しかし、コーヒーの甘味を引き出す焙煎はとても難しいのです。
基本的に焙煎とは「苦味」を作り出す作業です。
焙煎を進めていく中で酸味が生まれ、その酸味が甘味に変わり、苦味へと変化していきます。
さらに焙煎を進めれば、この「甘味」はなくなります。
焙煎を進めていくなかで、甘味が残るギリギリの焙煎度合いを見極めて仕上げることが望ましく、そのギリギリのポイントを見極めるのが焙煎の技術の差が出るポイントです。
焙煎をしていると、酸味が甘みに変わり、香りが甘くなる瞬間があります。
この瞬間は、豆の表情をよく見る、嗅覚で甘さを感じ取るなど、人間の五感によって感じ取ることができ、コンピューター焙煎では見極めが難しいポイントです。
このように、本来は青臭いコーヒーの生豆ですが、焙煎をすることで酸味が生まれ、その酸味が甘味に変わり、苦味へと変化した後にコーヒーらしい味わいになります。
また、焙煎時間によってローストの深さ(焙煎度合い)が決まり、苦味と酸味のバランスも大きく変わります。
8段階のローストごとの味の特徴
ローストの深さ(焙煎度合い)は、おもに浅煎り、中煎り、深煎り、極深煎りの4つに分類でき、さらに上記のように細かく8段階のローストに分類されます。
味の特徴ですが、浅煎りでは酸味が強くなり、深煎りでは苦味が強くなります。
たとえば、強い苦味が特徴の「エスプレッソ」は主にフルシティロースト以上の焙煎度のコーヒー豆が使用されます。
逆にブルーマウンテンNo.1や、ゲイシャなど他の銘柄・品種にはない「果実味のある酸味」や「甘み」を有するコーヒーは浅煎りのミディアムローストから中煎りのハイローストまでの焙煎度合いが適しています。
これらの高級銘柄を「深煎りにしてはいけない」という訳ではありません。
しかし、深煎りにすると苦味やコクが増すかわりに、コーヒー豆本来の味が繊細な味わいが分からなくなるため、浅煎りから中煎りの焙煎度が適しているのです。
なお、8段階ある焙煎度合いの中でもっとも焙煎時間が少ないライトローストは、コーヒー専門店でも取り扱うことがほとんどありません。
ライトローストやシナモンローストなどの浅煎りでは、一般的なコーヒーの香りがほとんど感じられず、生豆の青臭さが強いため飲料用として用いられないためです。
なお、ライトローストは、豆の品質を確認するためのテイスティング(カッピングテスト)で用いられる焙煎度合いです。
もう少し詳しく、焙煎度合いごとの味の特徴を見ていきましょう。
焙煎度 | ロースト | 味の特徴 |
浅煎り | ライトロースト | 苦味はなくコーヒー豆本来の風味を感じられる焙煎度合い。生豆の緑がまだうっすらと残っており青臭さがある。均一に熱を通すことが難しく生焼けになることもあります。カッピングテストで使われる焙煎度合い。 |
浅煎り | シナモンロースト | 豆本来のフルーティーな酸味が特徴ですが青臭さも残っているので一般的には飲用されない。香辛料のシナモンのような色が特徴の焙煎度合い。 |
中煎り | ミディアムロースト | フルーツのような甘酸っぱさがあり、紅茶のような味わいが特徴。アメリカンコーヒーで使われる焙煎度合い。 |
中煎り | ハイロースト | 豆本来のフルーティーな酸味とほどよい苦味、甘みが感じられます。青臭さは残るがコーヒーらしさが十分に感じられる焙煎度。家庭用のレギュラーコーヒーやブルーマウンテンのような高級コーヒー豆でも飲用されることが多い。 |
深煎り | シティロースト | 苦味とほどよい酸味があり、甘みとコクも感じられます。青臭さはない。バランスの良い味わい。ドリップコーヒーやエスプレッソでも使われます。2ハゼと呼ばれる焙煎工程のセカンドクラックが始まる頃にはシティローストにさしかかっています。 |
深煎り | フルシティロースト | 苦味とコク、香ばしさ、豊かな甘みがあり、重量感のあるふくよかな味わいが特徴。お店によってはビターチョコレートのような美味しさが楽しめます。エスプレッソでも使用される焙煎度合い。 |
極深煎り | フレンチロースト | 強い苦味とコクがあり、酸味はほとんどない。どっしりとした苦味があるのでミルクを使うカフェラテやカフェオレに向いています。エスプレッソ、アイスコーヒーにも適しています。 |
極深煎り | イタリアンロースト | 強い苦味とスモーキーな香りが特徴。酸味はない。豆から多くの油分が浮き出るためこってりとした味になりやすい。エスプレッソやアイスコーヒーに使われます。 |
ロースト(焙煎度合い)によって苦味と酸味のバランスや、コクの深さや甘みが違うことが分かったところで、今度は焙煎方式(焙煎方法)の違いを解説します。
焙煎方式によってコーヒーの味は大きく変わる?
焙煎方式は、コーヒーの美味しさを決定づける非常に重要な要素であり、焙煎方式が違うだけでコーヒーの味は大きく変わると言われています。
焙煎方式は直火式(ガス、炭火、薪火、手網など)、半熱風式、熱風式の3つに分類できます。
ここから、焙煎方式ごとの味の違いを見ていきましょう。
直火式の特徴
▲富士珈機 フジローヤル R-105
はじめに紹介するのは直火式の焙煎。
直火という名前のとおり直接火で生豆に熱を加える焙煎方式です。
直火は「じかび」とも読みますが、コーヒーを生業とする人の間では「ちょっか」とも呼ばれます。
焙煎機を使った直火式の焙煎では、網状に穴が空いたドラム缶の中にコーヒーの生豆を入れ、直下の熱源で加熱します。
直火式で焙煎されたコーヒーは、メリハリのある独特の香ばしさと甘み、コクの深い味わいが楽しめるのが特徴です。
直火式焙煎のデメリットは、火加減が難しいため焼きムラが発生しやすく、焙煎に技術を要することです。
また、一度に焙煎できる量に限度があるため一度に大量のコーヒー豆を焙煎するのには向きません。
代表的な焙煎機メーカーは富士珈機(フジローヤル)、ラッキーコーヒーマシンなどが挙げられます。
熱風式の特徴
▲Loring Smart Roaster(ローリング社 スマートロースター)
熱風式は、コーヒー豆が入ったドラム缶に高温の熱風を送り込んで加熱する焙煎方式です。
味わいの特徴は、あっさりとクリアな味になりやすく、直火式や半熱風式と比較して軽い味わいに仕上がります。
熱風式のメリットは、ドラム缶の中の温度を一定に保ちやすく、焼きムラが少なく豆全体を均一に焙煎することが可能なこと。
浅煎りから中煎りで飲むとおいしいコーヒー豆を焙煎する場合、直火式だと火力の調節が難しく、焼きすぎてしまう可能性があります。
そのため、熱量をコントロールしやすい熱風式で焙煎されることが多いです。
瞬時に焙煎が可能なマシンや、知識不要の焙煎機も
焙煎するマシンによっては3分前後でコーヒー豆が焼きあがります。
▲最速2~4分で均一なコーヒーローストが可能なジェットロースター
また、焙煎機によっては瞬時に浅煎り、深煎りの設定変更が可能なマシンもあります。
さらに、温度設定や一定ローストも簡単なボタン操作で行えて、専門知識が不要というマシンも登場しています。
▲簡単に毎回安定した焙煎が可能な全自動業務用焙煎機「トルネードキング」
▲簡単なボタン操作だけで焙煎や、カフェ開業が可能な自動珈琲焙煎機「NOVO MARKⅡ(ノボマーク2)」
▲生豆を投入したらボタンを押すだけで焙煎が完了する
大量のコーヒー豆を一度にムラなく焙煎できる
熱風式は一度に大量のコーヒー豆をムラなく焙煎できることも大きな特徴です。
そのため、たくさんのコーヒー豆を取り扱うスターバックスやタリーズ、カルディなど多くのチェーン店でも熱風式の焙煎機を使用しています。
▲スターバックスでは一度に120kgまでの豆を焙煎できる「プロバット ネプチューン500」を使用。
なお、熱風式の代表的な焙煎機メーカーはアメリカのLoring社(ローリング)が挙げられます。
半熱風式の特徴
▲世界最高と言われ、独自の遠赤外線バーナーを搭載するDIEDRICH(ディードリッヒ) IR-12
半熱風式は、直火式と熱風式の両方の要素を兼ね備えています。
焙煎機の構造は直火式に似ており、直下の熱源でドラム缶の中のコーヒー豆を加熱しますが、半熱風式はドラム缶に穴が空いていません。
そのため、コーヒー豆が直接火にあたる事はなく、熱したドラム缶が鉄板のような役割を果たします。
味わいの特徴ですが、直火式よりも軽やかな口当たり、クリーンな苦味と甘み、酸味を引き出しやすいため、スペシャルティコーヒーの焙煎でも採用されることが多いです。
また、熱風式よりも香ばしさや甘みのあるコーヒーに仕上げやすいのが特徴です。
半熱風式のデメリットは、直火式ほどコーヒー豆の個性を出しにくく、熱風式ほど大量のコーヒー豆を焙煎できないことです。
代表的な焙煎機メーカーはPROBAT(プロバット)、DIEDRICH(ディードリッヒ)、Giesen(ギーセン)、などが挙げられます。
炭火焙煎
▲紀州備長炭を使用した南蛮屋の炭火焙煎(焙煎機はフジローヤル製をカスタマイズしたもの)
炭火焙煎とは、その名のとおり炭火を使ってコーヒー豆を焙煎する方法です。
焙煎方式としては直火式に当たります。
通常、焙煎機の熱源にはガスや電気によって発生させた火で焙煎しますが、炭火焙煎では熱源に炭を使用します。
炭火焙煎のメリットは遠赤外線によってコーヒー豆を芯までムラなく焙煎することが可能なため、生豆に含まれる水分を均一に飛ばすことが可能です。
そして、生豆をふっくら焼き上げられるのも炭火焙煎の特徴です。
お米がふっくら炊きあがると甘くて美味しいように、コーヒー豆もふっくら焙煎することで豊かな味わいに仕上がります。
味わいの特徴ですが、メリハリのある味わい、深いコク、濃厚な甘みが感じられます。
とても美味しくコーヒーを焙煎できる炭火ですが、ガスや電気よりコストがかかることがデメリットです。
そして、この炭火焙煎は火力の調節がとても難しく、どれだけ炭を足せば何度上昇するのか?
どれくらいの時間で上昇するのか?
これらが全てアナログ(感性、経験)であり、技術だけでなくセンスも問われる方式です。
炭火焙煎はデメリットの要素も大きいため、あまり採用されない方式ですが、ドトールの「炭火珈琲」、南蛮屋のすべてのコーヒー(うまか珈琲、ブラジルショコラなど)、エアドゥの機内で提供される「札幌珈琲館」のコーヒーなどは炭火焙煎されています。
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